変わっていく海を前に、私たちはどう向き合えばいいのか。そんな問いに、高校生ながら自ら答えを探し、実際に行動を起こしている人がいます。今回お話を伺ったのは、「Blue Campus」プロジェクトを仲間とともに立ち上げ、子どもたちや同世代に海洋問題を伝える活動を続ける、大沼七奈さんです。
父のふるさと・三宅島で聞いた「昔とは違ってしまった海」の話をきっかけに、海の現状に関心を持った彼女は、メキシコや岩手の海で変化の現実を自分の目で見てきました。その体験が「伝えること」の大切さに気づく転機となり、今ではダイビングのプロフェッショナル PADIダイブマスターを目指して学びを深めています。
海の未来のために挑戦する、そんな彼女の想いに触れてください。
私の目に映った、変わってしまった海
私は埼玉で育ち、海のそばで暮らしたことはありません。でも、海はいつも、身近に感じる存在でした。
それは、父のふるさと――三宅島の話を、小さな頃から何度も聞かされていたからです。さらに、毎年三宅島を訪れていたこともあり、私にとって海は“特別な場所”になっていました。
「昔は魚がたくさんいて、イセエビやアワビも豊富に獲れたんだよ」父はそんなふうに、かつての三宅島の海についてよく語ってくれました。その言葉から、私の中には「海=豊かで美しいもの」というイメージが自然とできあがっていきました。
でもある日、父がふと口にした「もう昔のような海ではないな」というひと言が、ずっと心に残っています。その言葉をきっかけに、私は「海って、変わってしまうものなんだ」と、はじめて現実の海に目を向けるようになりました。
それから、今の海を自分の目で見てみたい、現状をもっと深く知りたいという思いが募り、私はダイビングを始めました。そして、その過程で出会ったのがメキシコのラパスという海でした。
守ることで、海は戻ってくる
メキシコのラパスは、かつて魚が激減したものの、海洋保護区の設置によって資源が回復しつつある地域として知られています。また、ダイバーにも人気が高く、海と向き合うには最適な場所だと感じ、私はこの地への留学を決めました。
実際に現地で潜ってみると、禁漁区の取り組みにより、魚の群れや生き物たちが少しずつ戻ってきているのを肌で感じることができました。「守ることで、海は再生する」。その言葉の意味を、私はそこで実感しました。
しかし一方で、海水温が34度にも達することのあるラパスの海は、まるでお風呂のようで、その高温の影響でサンゴが広範囲にわたって白化し、死滅している現実にも直面しました。目の前に広がる白化したサンゴの景色は、「保護」だけでは追いつかない、気候変動の深刻さを痛感させるものでした。
そして、海洋資源の問題に直面しているのは、メキシコだけではありません。日本でも同じような課題が進行しています。私は岩手で、地元のダイバーさんにお話を伺う機会がありました。その中で印象的だったのは、「海藻がほとんどなくなってきている」という言葉でした。藻場が失われることで、海藻をすみかや餌にしていた生き物たちが姿を消し、漁獲量も年々減少しているという現実を知りました。
こうした現状に触れて、私は岩手で行われている藻場再生活動にも参加するようになりました。ダイバーとして、実際に海に潜り、海藻の植え付けなどを行いながら、失われた藻場を取り戻すための一歩一歩を積み重ねています。
人が努力してルールを作り、手を加えることで、少しずつ海の豊かさを取り戻しつつある場所で、それでもなお、すでに失われてしまったものがある――。守ろうとする動きは確かにあるけれど、変化のスピードには追いついていない。
現場を知る人たちだけが声を上げていても、もう足りない。もっと多くの人が、海の今を知り、関わる必要があると感じました。

1万人に“海の声”を届けたい
そう考えるようになってから、私は「では、自分にできることは何か」と自問するようになりました。その中で私がたどり着いたのが、“伝えること”です。
私は、「Blue Campus」プロジェクトという活動を立ち上げました。このプロジェクトは、同世代の4名の仲間と共に立ち上げたもので、2025年までに1万人に海洋問題を伝えることを目標に掲げています。
SNSを使って、サンゴの白化やプラスチックごみ、藻場の減少について発信したり、小学校に出向いて、海の大切さを伝えるワークショップを開いたりしています。とくに子どもたちに伝えるときは、できるだけ楽しく、でもちゃんと本質が伝わるように工夫します。紙芝居やカードゲームを使って、「海ってすごい」「だから守りたい」って思ってもらえるように想いを込めて伝えています。今すぐ何かを変えられるものではないかもしれないけど、それでも「知ること」や「感じること」は、未来を変えるための第一歩だと思っています。

伝えるだけじゃなく、“導ける存在”に
今、私はPADIダイブマスターを目指しています。その理由は、単にダイビング技術を高めたいからではありません。「海のガイド」として、より多くの人に海の魅力とその裏側にある現実を伝えたいという強い思いがあるからです。
メキシコや岩手の海で目にした、生き物の死や環境破壊の現場。その経験を通して、「もっと多くの人に知ってほしい」「一緒に考えてほしい」と感じるようになりました。だからこそ私は、ダイビングのプロフェッショナルとして、人々を海へと導く存在になりたいと考えています。
将来的には、ダイブマスターのスキルを活かして、安全に海洋調査に関われるようになることも目指しています。“潜れるからこそ見えること”を、自分の言葉と行動で社会に還元していきたいのです。
私の将来の目標は、海洋研究・NPO活動・ビジネスという3つの軸から海洋問題に取り組むこと。そのために、どんな現場でも信頼される存在になれるよう、責任感と情熱を持ってこのコースに挑戦します。海を「楽しむ」だけで終わらせず、「守る」行動につなげていくために、私は、“伝える人”から“導く人”へ、一歩を踏み出します。
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